訪問鍼灸のヒヤリハット|「なんもない」を通しかけた日
この記事は、
訪問鍼灸の現場で、
「なんもない」という一言を、そのまま通しかけた日の話です。
避けられるのは、
・情報源が1つのまま処置を進めること
・認知機能低下を前提に入れない判断
・“いつも通り”を安全情報にしてしまうこと
です。
現場の前提
81歳、女性。
・認知機能はかなり低下
・過去と現在が混同する
・時間や曜日感覚は曖昧
・希死念慮あり
・ほとんど臥床
・元々円背が強く、歩行能力も低下
主介護者はご主人と次男。
その日は、
ご主人・次男ともに不在。
本人は椅子に座っていた。
いつもの確認
施術前、いつも通り聞く。
「変わったことはなかったか」
「痛いところはないか」
「言っておくことはないか」
本人は言う。
「なんもないよ。
痛いとこもない。
いつもと変わらない。」
ここまでは、
よくあるやりとり。
違和感
座位で可動域を確保。
その後、
ベッドへ移動してもらう。
後ろについて歩く。
いつもより遅い。
そこで一度止め、
ベッドに腰掛けてもらう。
なんとなく、
様子が違う。
ご主人の帰宅を待つ。
情報が増えた瞬間
ご主人が帰宅。
「先生、胸いたがってませんか?」
「いや、本人は特に何も言ってませんが…」
「二日前、風呂で転けて。
病院で肋骨骨折って言われました。」
ヒヤッとした本当の理由
危なかったのは、
骨折を見抜けなかったことではない。
危なかったのは、
本人の「なんもない」を、
安全情報として扱いかけたこと。
認知機能が低下している。
時間感覚も曖昧。
痛みの表現も一定しない。
その条件で、
情報源が本人だけ。
それでも、
いつも通り処置を進めかけた。
何が足りなかったか
足りなかったのは、技術ではない。
足りなかったのは、
情報の数。
認知機能低下+家族不在。
この時点で、
「情報が1つしかない状態」
だった。
今なら置く判断
今なら、こう置く。
・認知低下のある方の申告は参考情報
・家族がいない場合は処置を軽くする
・必ず情報を増やしてから負荷をかける
本人が「大丈夫」と言っても、
安全が証明されたわけではない。
まとめ
この話で減らすべき判断は、
「なんもない」を、そのまま通すこと。
訪問では、
・情報が途切れる
・転倒が隠れる
・骨折が後から出る
ことは珍しくない。
だからこそ、
情報源が1つの時は、
処置を進めない。
“いつも通り”は、
安全の証明ではない。
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