訪問鍼灸のヒヤリハット|鍼をしてはいけない症状

この記事は、
ケア職からの紹介で訪問し、
「腰が痛いから鍼をしてほしい」と言われた場面で、
介入そのものを止める判断が必要だった話
です。

避けられるのは、
・見逃し
・不適切な介入
・その場しのぎの対応
です。


現場の事実

・80歳女性
・飲食店経営者
・長年ワンオペで働いてきた
・数ヶ月前から腰痛あり
・数日前から急激に悪化
・ケア職から「一度鍼をしてあげてほしい」と紹介
・本人は、身体を触られることや鍼が苦手と事前に聞いていた

訪問当日。
インターフォンを鳴らすが反応なし。

電話をすると、
「今、動けない。鍵は開いているから入ってきて」
とのこと。

室内に入ると、寝ている状態。


起きていたこと

状況を聞くと、
「腰が痛いというより、力が入らない」
「一度立ちたい」との訴え。

介助して立ち上がらせると、
・両下肢にほぼ力が入らない
・自分で身体を支えられない
・左右差はなく、腰から下が一様に脱力している

本人は、
「鍼をしてほしい。それで治してほしい」
と希望。

発生のきっかけを聞いても、
明確な心当たりはない。

「腰は前から痛かったが、
 2〜3日前から突然こうなった」
とのこと。


その場で取った判断

この時点で、
運動器の問題として扱える状況ではない

・痛みよりも脱力が前面
・急性の経過
・両下肢、左右対称
・発生機序が説明できない

歩ける・歩けない以前に、
下半身の麻痺感が主体

本人の希望はあったが、
鍼をする選択肢は取らなかった。

すぐに、
・家族
・ケア関係者
へ連絡。

「鍼灸をやっている場合ではない」
「すぐ病院へ行く必要がある」
と伝えた。


ヒヤッとした本当の理由

危なかったのは、
腰が痛いという紹介内容でも、
高齢だったことでもない。

一番危なかったのは、
「症状」と「依頼理由」がズレているのに、
介入できてしまう条件がそろっていたこと

・ケア職からの紹介
・本人の希望
・過去の腰痛歴
・鍼灸という“痛み対応”の文脈

これらがそろうと、
「とりあえず一度」
が起きやすい。

同じ構造は、
👉技術じゃない理由で、ヒヤッとした瞬間——「大丈夫」を自分が引き受けかけた判断(脳梗塞のケース)

ここでも起きている。


その後

搬送先は大きな病院。
女性特有のがんが見つかり、
かなり進行していた。

その後、
1〜2ヶ月で亡くなった。

結果を知ったのは、
ずっと後のこと。


まとめ

この場面で避けるべきだったのは、
「鍼をするか、しないか」
という技術選択ではない。

症状の質が、
介入してはいけない側に振り切れていた

という判断を、
その場で引き受けないこと。

次に同じ場面が来たら、
本人の希望よりも、
説明や説得よりも、

介入しない判断を、
静かに先に置く。


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