滑り止め靴下で転びかけた話|バリアフリー化後の家で見落としやすい転倒リスク

バリアフリー化した家でも、転倒リスクがなくなるわけではありません。

むしろ、住宅改修後だからこそ見落としやすい危なさがあります。

今回のケースでは、古い家の段差をなくすためにリフォームを行い、床も新しいフローリングになっていました。ご本人は80歳代。以前に転倒で大腿骨を骨折され、退院後に自宅で生活するための環境整備が行われていました。

一見すると、安全に近づいたように見えます。

ただ、実際には新しいフローリングがよく滑る。ご本人の歩行能力は落ちており、壁伝いでないと歩けない。足もあまり上がらず、すり足に近い歩き方になっていました。

そこでご家族が「滑ると危ないから」と、滑り止め付きの靴下を履かせていました。

もちろん、その判断自体は自然です。滑り止め靴下にはメリットもあります。

ただ、このケースでは、滑らないことが逆に引っかかりになり、歩行中に転倒しかける場面がありました。

この記事では、滑り止め靴下を否定するのではなく、訪問鍼灸の現場で見落としやすい「床・歩き方・家族の善意」の組み合わせについて整理します。

バリアフリー化後に起きたヒヤリハット

このケースでは、もともと古い家で段差が多く、転倒リスクの高い環境でした。

ご本人は転倒によって大腿骨を骨折され、退院後に自宅へ戻るため、家族が住宅改修を行いました。

段差を減らし、床もきれいになり、見た目にはかなり安全になったように見えます。

ただ、実際に歩いてもらうと、新しいフローリングで足元が滑りやすくなっていました。

さらに、ご本人の歩行は安定しておらず、壁伝いでないと歩けない状態。足も十分に上がらず、床をこするようなすり足歩行になっていました。

そこでご家族は、滑らないように滑り止め付きの靴下を履かせていました。

ここまでは、家族としては自然な判断です。

ただ、歩行中に足が上がらないため、滑り止め部分が床に引っかかり、かえってつまずきそうになる場面がありました。

住宅改修、滑り止め靴下、家族の見守り。

どれも「安全のため」に行われたものです。

それでも、本人の歩き方との相性が悪いと、別の転倒リスクになることがあります。

滑り止め靴下が逆に危なくなる場面

滑り止め靴下は、立ち上がりや立位保持の場面では役に立つことがあります。

足をしっかり床につけられる人、踏ん張る力がある人、足が上がる人にとっては、滑りにくいことが安心材料になる場合もあります。

ただし、次のような状態では注意が必要です。

  • 足が上がらず、すり足で歩いている
  • 方向転換のときに足が床に残る
  • 壁や家具を伝わないと歩けない
  • 大腿骨骨折後などで歩行能力が落ちている
  • 新しいフローリングで床との摩擦が変わっている
  • 急いだときや夜間に足の運びがさらに悪くなる

このような場合、滑らないことがそのまま安全になるとは限りません。

足が床をこするように動いている人にとっては、グリップが強い靴下がブレーキのように働くことがあります。

本人は足を前に出しているつもりでも、靴下だけが床に引っかかる。

その瞬間に体だけが前へ進み、つまずきや転倒につながることがあります。

訪問鍼灸の現場では、こうした小さな違和感を見つけることが大切です。

転倒リスクは、筋力だけで決まるわけではありません。床、靴下、歩き方、家具の位置、家族の声かけが重なって起こります。

訪問現場で起きるズレについては、訪問鍼灸で起きるズレの整理でも書いています。

家族の判断は間違いではない

ここで大事なのは、ご家族の判断を否定しないことです。

「滑り止め靴下は危ないのでやめてください」とだけ伝えると、ご家族からすると責められたように感じることがあります。

実際、ご家族は危険を減らそうとして行動しています。

新しいフローリングが滑る。本人の足元が不安定。転倒したらまた骨折するかもしれない。

そう考えれば、滑り止め付きの靴下を履かせるのは自然です。

問題は、滑り止め靴下そのものではありません。

その人の歩き方と合っているか。

使う場面が合っているか。

床との相性が悪くないか。

ここを一緒に確認する必要があります。

つまり、訪問する側が渡すべきなのは「正解」ではなく「予測」です。

この歩き方なら、滑るリスクだけでなく、引っかかるリスクもあります。

日中は大丈夫でも、夜間やトイレへの移動では危ないかもしれません。

方向転換のときだけ引っかかるかもしれません。

こうした予測を家族に渡すことで、現場の判断が少し減ります。

訪問時に確認したいポイント

このようなケースでは、施術だけで終わらず、短い距離でも実際の歩行を見ることが大切です。

確認したいのは、細かい評価名ではなく、生活の中でどこが危ないかです。

  • ベッドからトイレまでの移動
  • 食卓までの移動
  • 立ち上がり直後の一歩目
  • 方向転換の場面
  • 壁や家具を持ち替える場面
  • 靴下、スリッパ、室内履きの違い
  • 夜間や急いだときに危なくなりそうな場所

見るべきポイントは、「歩けるかどうか」だけではありません。

どこで足が上がらなくなるか。

どこで滑るのか。

どこで引っかかるのか。

どこで手すりや壁が途切れるのか。

ここを見ることで、滑り止め靴下を使うかどうかだけでなく、使う場面を分ける判断もしやすくなります。

たとえば、立ち上がり時には有効でも、長い距離を歩くときには引っかかるかもしれません。

食卓周りでは問題なくても、トイレ前の方向転換では危ないかもしれません。

このように、生活動線の中で確認することが大切です。

介護職やケアマネとの連携については、訪問鍼灸と介護連携の考え方にも整理しています。

家族にどう声をかけるか

家族に伝えるときは、否定から入らない方が伝わりやすいです。

たとえば、次のような言い方です。

滑らないように靴下を選ばれたのは、すごく自然だと思います。
ただ、今の歩き方だと足が上がりにくいので、滑り止めが床に引っかかる場面がありそうです。
滑るリスクと、引っかかるリスクの両方を見た方がよさそうです。

もう少し具体的に伝えるなら、こうです。

特にトイレに行くときや方向転換のときは、足が床に残りやすいです。
日中は大丈夫でも、夜間や急いだときは転びやすくなるかもしれません。
どの靴下がいいかを決める前に、実際の歩く場面で一緒に見てみましょう。

この伝え方なら、ご家族の工夫を否定せずに、リスクを共有できます。

大切なのは、「これが正しい」「これは間違い」と決めつけることではありません。

その人の生活の中で、何が転倒につながりそうかを一緒に見ることです。

訪問鍼灸を始めたばかりの方は、こうした判断を全部一人で抱え込みがちです。全体の考え方は、訪問鍼灸の始め方にもまとめています。

滑り止め靴下は「良い・悪い」ではなく相性で見る

滑り止め靴下は、悪いものではありません。

ただ、すべての高齢者にとって安全とは限りません。

足が上がる人には安心材料になることがあります。

一方で、すり足歩行の人、方向転換で足が残る人、壁伝いで歩く人にとっては、引っかかりになることがあります。

特に、住宅改修後の新しいフローリングでは、床との相性が変わります。

家がきれいになった。段差が減った。滑り止め靴下も履いた。

それでも転倒リスクが残ることはあります。

訪問の現場では、「滑るか」だけでなく「引っかかるか」も見る。

家族には、道具の良し悪しではなく、生活場面ごとの予測を渡す。

それだけで、現場判断は少し減らせます。

訪問鍼灸の判断で迷う場面を減らしたい方へ

訪問鍼灸では、施術そのものよりも、現場での小さな判断に迷うことがあります。

滑るのか、引っかかるのか。

家族にどこまで伝えるのか。

危ないと思ったときに、誰へ共有するのか。

こうした判断が毎回ぶれると、現場での負担が大きくなります。

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