高齢者の「ご飯がまずい」「お金を取られる」をどう受け取るか

施設や在宅の現場では、本人さんから同じ不満を繰り返し聞くことがあります。

「ご飯がまずい」

「お金を取られる」

「私のお金なのに自由に使えない」

「嫁が全然来ない。私は姑の面倒を見たのに」

事実関係を確認すると、食事には一定の配慮がされていたり、年金は家族と相談して管理していたり、家族も可能な範囲で訪問していたりすることがあります。

そのため、周囲からは、

  • また同じことを言っている
  • 認知症だから仕方がない
  • 本人の思い込みだ
  • 家族の事情を分かっていない

と受け取られやすくなります。

ただ、本人の言葉を事実か間違いかだけで分けると、見落とすものがあります。

その訴えには、実際に起きている問題だけでなく、失った自由、自分で決められない感覚、過去を否定されたような感覚、寂しさ、怒りなどが含まれていることがあるからです。

一方で、「本当は自由を奪われたことに怒っているんだ」と支援者側が意味を決めてしまうのも違います。

本人の訴えを額面どおりに決めつけない。

しかし、訴えの裏には必ず別の意味があるとも決めつけない。

この記事では、施設や在宅で聞く本人さんの訴えを、事実・感情・背景に分けて考える方法を整理します。

3行でいうと

  • 本人の訴えには、事実だけでなく、失った自由や役割への感情が混ざっていることがある
  • ただし、背景を推測する前に、本当に問題が起きていないかを確認する必要がある
  • 支援者の役割は本当の意味を当てることではなく、複数の可能性を残したまま情報を共有することである

先に整理すると、訴えは3つに分けて見る

本人さんから強い訴えを聞いた時は、次の3つに分けて考えると整理しやすくなります。

見るもの 確認すること 注意点
事実 実際に何が起きているか 認知機能の低下だけを理由に訴えを無効にしない
感情 本人が何を奪われた、嫌だ、寂しいと感じているか 感情の正しさを判定しない
背景 生活歴、家族関係、行動制限、選択肢の減少 あくまで仮説として持つ

たとえば「お金を取られる」という訴えがあった場合、最初から「認知症による思い込み」とは考えません。

まず、誰が、何を、どのような理由で管理しているのかを確認します。

そのうえで、本人さんが「自分の領域を奪われた」と感じている可能性についても考えます。

事実確認と感情の理解は、どちらか一方ではありません。

両方を分けて持つ必要があります。

本人の訴えを「事実か思い込みか」の二択にしない

本人さんの訴えを聞いた時、支援者側は正しいか間違っているかを早く判断したくなります。

「本当に家族が来ていないのか」

「本当にお金を取られているのか」

「食事は本当にまずいのか」

もちろん、事実関係の確認は必要です。

ただ、事実と違っていたからといって、本人さんが感じている不満まで存在しないことにはなりません。

反対に、本人さんが強く訴えているからといって、家族や施設に問題があると決めることもできません。

本人さんには本人さんの見え方があります。

家族には家族の事情があります。

施設には、安全や生活全体を守るためのルールがあります。

それぞれが持っている情報も、見ている時間帯も、背負っている役割も違います。

本人の訴えについては、こちらの記事でも整理しています。

訪問鍼灸で本人の訴えをそのまま施術判断に使わない理由

大切なのは、誰か一人の言葉を正解にすることではありません。

それぞれの言葉が、どの位置から出ているのかを見ることです。

最初に必要なのは、背景の推測ではなく事実確認

「この訴えの本当の意味は何だろう」と考える前に、実際に問題が起きていないかを確認します。

たとえば、次のような確認です。

  • 食事の味、温度、量、形態は本人さんに合っているか
  • 口腔内の状態や味覚、嚥下状態に変化はないか
  • 金銭を誰が、どのような合意で管理しているか
  • 本人さんが自由に使える金額や方法は説明されているか
  • 通帳や年金から不明な出金がないか
  • 家族の訪問頻度について、本人と家族で認識がずれていないか
  • 施設側の説明が本人さんに伝わっているか

特に、「お金を取られた」「年金を使わせてもらえない」という訴えは、単なる不満として処理してはいけません。

実際に本人さんの財産が不当に使われている場合は、経済的虐待にあたる可能性があります。

家族が管理していること自体が問題なのではありません。

本人さんのために必要な管理なのか、本人さんへの説明や同意があるのか、実際の使途はどうなっているのかを分けて確認します。

厚生労働省の意思決定支援ガイドラインでも、認知症があるから本人の意思を最初から除外するのではなく、理解しやすい説明を行い、本人が表明した意思や選好を確認することが基本とされています。

認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン

背景を想像することは、事実確認を省略する理由にはなりません。

「ご飯がまずい」に含まれているかもしれないこと

「ご飯がまずい」という言葉は、食事の味についての評価です。

本当に本人さんの口に合っていないこともあります。

温度が低い。

量が少ない。

食事形態が変わった。

塩分や糖分の制限がある。

以前と比べて味覚が変わった。

そのため、最初から「施設への不満を食事にぶつけている」と考えるのは危険です。

一方で、施設生活では、本人さんが自分で選べるものが少なくなることがあります。

  • 起きる時間
  • 食べる時間
  • 外出する場所
  • お風呂に入る日
  • お金の使い方
  • 一日の過ごし方

その中で、食事が数少ない楽しみや、自分の意見を表明できる場になっている場合があります。

施設に入りたくなかった。

自由に外へ出られない。

一日の予定を自分で決められない。

その不満を整理して言葉にすることが難しい時、最も分かりやすい「ご飯がまずい」という言葉に集まることがあります。

この場合も、

「本当は施設に入りたくなかったことを怒っているんです」

と決める必要はありません。

家族やケア職へ共有するなら、次のようになります。

食事への不満が繰り返し聞かれています。味や温度など実際の食事内容の確認は必要ですが、施設生活の中で選べることが減っている感覚や、他の不満が食事の言葉に集まっている可能性もあるように感じます。

これなら、食事の問題を否定せず、施設生活全体への不満も可能性として残せます。

「お金を取られる」に含まれているかもしれないこと

「お金を取られる」と聞いた時は、まず実際の管理状況を確認します。

  • 通帳や現金は誰が管理しているか
  • 本人さんは管理方法を理解しているか
  • 家族との間でどのような話し合いがあったか
  • 本人さんが使えるお金は用意されているか
  • 本人さんの知らない支出がないか

そのうえで考えたいのが、お金の持つ意味です。

お金は、単なる数字ではありません。

本人さんにとっては、

  • 自分が働いてきた証拠
  • 我慢して貯めてきたもの
  • 家族を支えてきた歴史
  • 自分で生きてきた証明
  • 今後のことを自分で選ぶための手段

でもあります。

活動範囲が狭くなり、発言が通りにくくなり、自分で決められるものが減った時、お金は「これは自分のものだ」と分かりやすく主張できる数少ない領域になります。

その領域に家族や支援者が入ってくると、本人さんには、

「自分のものを奪われた」

「自分の人生に勝手に入ってこられた」

と感じられることがあります。

実際には家族が本人さんの生活費や施設費のために管理していたとしても、本人さんの中で起きている感覚は別です。

家族側の管理が適切であることと、本人さんが侵害されたように感じていることは、同時に成立します。

「私のお金なのに使えない」に含まれているかもしれないこと

年金や預金を家族が預かることを、本人さんも含めて決めていたケースがあります。

それでも、本人さんが実際に何かを買いたいと言った時に止められると、強い反発が出ることがあります。

家族から見ると、

  • 無駄遣いを防ぎたい
  • 生活費や施設費を残したい
  • 詐欺や高額契約を防ぎたい
  • 同じものを何度も買うのを止めたい

という理由があります。

本人さんから見ると、

  • 自分のお金なのに、自分で決められない
  • 自分にはもう判断する力がないと言われた
  • 何かを選ぶたびに許可が必要になった
  • 過去に働いて築いたものまで、自分のものではなくなった

と感じる場合があります。

一度、家族と金銭管理について合意していたとしても、喪失感までなくなるとは限りません。

管理方法には同意できても、実際に選択肢を止められるたびに、

「また一つ、自分で決められなくなった」

と感じることがあります。

ここで必要なのは、すべて本人さんの希望どおりにお金を使えるようにすることではありません。

本人さんが選べる範囲を、可能な限り残すことです。

  • 毎月、本人さんが自由に使える金額を決める
  • 何に使いたいのかを先に聞く
  • 禁止だけでなく、使える方法を一緒に考える
  • 管理の理由を本人さんに分かる言葉で繰り返し説明する
  • 本人さんの希望を記録し、家族や支援者間で共有する

安全のために管理することと、本人さんの選択肢をすべてなくすことは同じではありません。

「嫁が来ない」に含まれているかもしれないこと

「嫁が来ない。私は姑の面倒を見たのに」

この言葉には、世代的な家族観が含まれていることがあります。

今の家族関係から見ると、

「嫁が姑の面倒を見るのは当たり前ではない」

「時代が違う」

と考えるのが自然かもしれません。

ただ、本人さんが生きてきた時代には、嫁が姑の世話をすることを強く求められていた場合があります。

本人さん自身も、嫌でも断れず、家族や地域からの圧力の中で役割を背負ってきたのかもしれません。

その人に対して、

「今はそんな時代ではありません」

と伝えても、単なる価値観の更新として受け取られないことがあります。

本人さんには、

「あなたが我慢してきたことには意味がなかった」

「あなたは古い考えの間違った人だった」

「自分だけが損をした」

と聞こえる可能性があるからです。

もちろん、本人さんが過去に苦労したからといって、次の世代にも同じ役割を強制してよいわけではありません。

過去の苦労を理解することと、現在の家族に同じ苦労を背負わせることは別です。

ただ、価値観を正そうとする前に、

「自分はあれだけやったのに、今の自分は誰にも大切にされていない」

という寂しさや不公平感がないかを見る必要があります。

本人さんが本当に求めているのは、「嫁という役割」ではなく、

  • 自分のことを気にかけてほしい
  • 頑張ってきた過去を分かってほしい
  • 家族の中に自分の居場所があると感じたい
  • 自分だけが捨てられたわけではないと確認したい

ということかもしれません。

ただし、これも可能性の一つです。

単純に、本人さんが嫁に来てほしいと思っているだけかもしれません。

支援者側が「本当は寂しいんですね」と意味を置き換えすぎないことも必要です。

背景を考えることと、本人の内面を決めつけることは違う

本人さんの言葉の背景を考えることには意味があります。

背景を考えなければ、

  • 認知症だから
  • 昔の人だから
  • 性格が悪いから
  • 何を言っても仕方がない

という処理になりやすいからです。

一方で、背景を考えることには危険もあります。

支援者が、自分の納得できる物語を作ってしまうことです。

たとえば、

  • 本当は施設に入れられたことを怒っている
  • お金ではなく尊厳の問題だ
  • 嫁ではなく寂しさを訴えている
  • 過去を否定されたと感じている

と断定してしまうと、本人さんが実際に言っていることから離れていきます。

本人さんの内面は、支援者が解説するためのものではありません。

持っておくのは、一つの答えではなく、複数の仮説です。

避けたい決めつけ

「認知症だから、お金を取られたと思っている」

「本当は自由を奪われたことに怒っている」

残しておきたい見方

「実際の金銭管理を確認する必要がある。そのうえで、自分で決められる範囲が減ったことへの不安が含まれている可能性もある」

「かもしれない」を残しておく。

それが、本人さんの言葉を軽く扱わず、支援者側の思い込みも強くしないための余白になります。

家族・ケア職へどう共有するか

本人さんの訴えを家族やケア職へ伝える時は、事実・本人の言葉・こちらの見立てを混ぜない方が伝わります。

次の順番で整理します。

  • 本人さんが実際に話した言葉
  • 確認できている事実
  • まだ確認できていないこと
  • 背景として考えられる可能性
  • 今後確認したいこと

「お金を取られる」と言われた場合

ご本人から、「お金を取られる」「自分のお金なのに使えない」という訴えが繰り返し聞かれています。

現在の金銭管理の方法や、ご本人への説明状況については、こちらでは確認できていません。

実際の管理状況を確認する必要がありますが、ご本人にとって、自分で決められる範囲が減っていることへの不安も含まれている可能性があります。

「ご飯がまずい」と言われた場合

最近、食事への不満が繰り返し聞かれています。

味や温度、食事形態が合っていない可能性もあるため、実際の食事状況は確認した方がよいと思います。

一方で、食事以外の生活上の不満や、選べることが減っている感覚が、食事への訴えとして出ている可能性もあります。

「嫁が来ない」と言われた場合

ご本人から、ご家族が来ないことへの不満が聞かれています。

実際の訪問頻度と、ご本人の認識に違いがあるかは確認が必要です。

過去に自分が家族の介護を担ってきた経験と、現在してもらえていることを比べ、不公平感や寂しさを感じている可能性もあるように思います。

ここで大事なのは、

「ご本人はこう思っています」

と、

「実際にこうです」

を分けることです。

ケアマネジャーへの報告については、こちらの記事でも整理しています。

訪問鍼灸の施術報告書|医師・ケアマネに何をどう書く?

訪問施術者は、訴えの判定者ではなく情報の整理役になる

訪問鍼灸師や訪問マッサージ師は、本人さんと一対一で話す時間があります。

家族や施設職員さんには言いにくいことを、施術者にだけ話す人もいます。

そのため、本人さんの本音を聞ける立場だと感じることがあります。

ただし、本人さんから詳しい話を聞いたからといって、施術者が家族関係や金銭管理の全体を理解できたとは限りません。

施術者が聞いているのは、その人が、その時間に、その施術者へ話した内容です。

家族側の事情。

施設側の記録。

他職種が見ている場面。

本人さんの別の時間帯の様子。

それらを知らないまま、施術者が「家族が悪い」「施設が本人の自由を奪っている」と判定すると、連携を壊すことがあります。

反対に、家族や施設の説明だけを聞いて、「本人の思い込みです」と処理するのも違います。

訪問施術者ができるのは、誰が正しいかを決めることではありません。

  • 本人さんが何を話したかを残す
  • 事実と本人さんの受け取り方を分ける
  • 身体面や生活面で気づいたことを共有する
  • 確認が必要なことを、ケアマネや施設へ渡す
  • 自分の見立ては仮説として伝える

ここまでです。

介護職さんへ短く情報を返す方法については、こちらの記事でも整理しています。

介護職への訪問鍼灸の申し送り|その日の介助・見守りに使える伝え方

本人さんの言葉を翻訳することは必要です。

ただし、その翻訳を正解として押しつけない。

それが、生活の中に入る外部職としての距離感だと思います。

まとめ

「ご飯がまずい」

「お金を取られる」

「私のお金なのに使えない」

「嫁が来ない」

こうした訴えを、すべて額面どおりに受け取ると、家族や施設に対する一方的な評価につながることがあります。

反対に、認知症や性格の問題として処理すると、実際に起きている問題や、本人さんが失っているものを見落とします。

本人さんの訴えは、次の3つに分けて考えます。

  • 事実:実際に何が起きているのか
  • 感情:本人さんが何を嫌だ、寂しい、奪われたと感じているのか
  • 背景:生活歴、家族関係、行動制限、選択肢の減少がどう影響しているか

最初に確認するのは事実です。

そのうえで、感情や背景について複数の可能性を持ちます。

ただし、本人さんの本当の気持ちを支援者が決めることはできません。

訴えの奥を想像することは必要ですが、奥にあるものを支援者が決めてはいけません。

本人さんの言葉を否定しない。

家族や施設をすぐに悪者にしない。

自分の見立ても正解にしない。

複数の可能性を残したまま、確認できた情報を家族やケア職へ渡す。

それが、本人さんの訴えを軽く扱わず、支援者側の思い込みも増やさない関わり方だと思います。

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