訪問施術で「買い足さずにできること」|施設にあるもので運動を組む価値

施設で訪問鍼灸・訪問マッサージを行っていると、利用者さんの動作について気づくことがあります。

立ち上がりが不安定。
歩く機会が少ない。
足の力が落ちている。
移乗時に身体をうまく使えていない。

そうした様子を見ると、施術者として運動や動作練習を提案したくなることがあります。

その時に、新しい道具や福祉用具を用意した方がよいと考えることもあるかもしれません。

ただ、施設側からは、何かを買い足す前に、施設にある椅子・手すり・ベッド・廊下などを使って関わってくれる方が助かるという声がありました。

新しい物を入れると、購入費用だけではなく、保管、管理、安全確認、職員への周知も必要になります。

施術者にとっては小さな提案でも、施設側には新しい仕事が増えることがあります。

この記事では、施設にある物や普段の生活動作を活かして、訪問施術の中に運動や動作確認を入れる考え方を整理します。

具体的な運動メニューではなく、「まず買い足す前に何を見るか」を確認する記事です。

新しい道具を入れることが最初の答えではない

運動や動作練習を考える時、施術者は専用の道具があった方がやりやすいと感じることがあります。

運動用のボール。
ゴムバンド。
踏み台。
歩行補助具。
新しい椅子や手すり。

必要な物であれば、導入を検討する意味はあります。

ただ、施設では、新しい物を一つ増やすだけでも管理が必要です。

施術者側の提案 施設側に増えること
運動器具を置く 保管場所と使用方法を決める
新しい福祉用具を使う 安全性・費用・適合を確認する
毎日運動してもらう 職員さんの声かけや見守りが増える
利用者さん専用の物を用意する 紛失や他利用者との区別が必要になる

新しい物を使うことが悪いわけではありません。

ただ、最初から「何を買うか」を考えるのではなく、「今ある環境で何ができるか」を見る方が、施設側の負担を増やしにくくなります。

まず施設にある環境を確認する

施設の中には、動作確認や運動に使える環境があります。

いつも座っている椅子。
ベッドの端。
廊下の手すり。
食堂までの移動。
居室からトイレまでの動線。

特別な物ではありません。

ただ、利用者さんが普段使っている環境だからこそ、実際の生活につながりやすいという利点があります。

施設にある環境 確認できること
普段使う椅子 立ち上がり、座り直し、姿勢
ベッド 起き上がり、端座位、移乗
廊下や手すり 歩き始め、方向転換、疲労の出方
居室からトイレまでの動線 生活内で必要な移動距離と見守り

施術者が見たい動きだけを別に作るのではなく、本人さんが普段行っている動作を見る。

それだけでも、施設側に返せる情報が具体的になります。

福祉用具や環境の違和感に気づいた時の共有方法については、こちらの記事で整理しています。

訪問鍼灸師が福祉用具に気づいた時|提案ではなく“共有”にする考え方

生活動作そのものを練習に使う

施設での運動は、必ずしも運動の時間を別に作る必要はありません。

立ち上がる。
椅子に座り直す。
ベッドから起きる。
トイレまで歩く。
食堂へ移動する。

こうした生活動作そのものが、身体を使う機会になります。

訪問施術者ができるのは、施設の日課を変更することではありません。

施術中や施術前後に、普段の動作を短く確認し、本人さんがどこで困っているのかを見ることです。

別に運動を作る考え方 生活動作を活かす考え方
運動用の時間を増やす 普段の立ち上がりを確認する
専用器具を用意する いつもの椅子や手すりを使う
運動回数を職員へ依頼する 今の生活で動けている場面を共有する

生活動作を使えば、施設側も「何のための運動なのか」を理解しやすくなります。

ただし、安全性や本人さんの状態によっては、動作練習を行わない方がよい日もあります。

施術者が予定した運動を優先するのではなく、その日の状態と施設側の見立てを確認することが前提です。

職員さんの仕事を増やす提案にしない

施術中にうまくできた運動を、施設職員さんにも続けてほしいと思うことがあります。

「毎日これをしてください」
「朝と夕方に歩かせてください」
「立ち上がりを10回してください」

こうした提案は、施術者側では本人さんのためでも、施設側には新しい業務として残ります。

施設職員さんは、一人の利用者さんだけを見ているわけではありません。

他の利用者さんへの対応。
食事、排泄、入浴。
事故予防。
記録や申し送り。

さまざまな業務の中で動いています。

負担になりやすい伝え方 共有として伝える形
毎日この運動をしてください 今日は椅子から3回立てました
もっと歩かせてください 食堂までの移動は声かけがあると進みやすそうでした
この方法で介助してください 右側から声をかけると立ち上がりやすい様子でした

施術者がすべきなのは、職員さんへ新しい仕事を割り振ることではありません。

施術中に見えたことを共有し、施設側が使えるかどうかを判断できる材料を返すことです。

職員さんへの伝え方については、こちらの記事でも整理しています。

訪問施術者の声が大きい・説明を施設に丸投げする|認知症対応型施設で困られる関わり

必要な物に気づいた時は、決めずに共有する

今ある環境を確認した結果、新しい福祉用具や環境調整が必要だと感じることもあります。

椅子の高さが合っていない。
手すりが使いにくい。
歩行器が身体に合っていないように見える。
ベッド周囲の動線に不安がある。

そうした気づきは、黙っておく必要はありません。

ただし、施術者が家族さんへ直接「これを買った方がいい」と進めるのは避けた方が安全です。

施術者が見たのは、施術時間中の一場面です。

施設側や福祉用具専門相談員さんは、日常の動作、夜間、介助方法、費用、家族さんの希望なども含めて考えます。

施術者が決める形 連携につながる共有
この椅子は変えた方がいいです 立ち上がり時に座面が低く、前へ重心を移しにくそうでした
新しい歩行器が必要です 方向転換時に歩行器から身体が離れる場面がありました
手すりを追加してください ベッドから立つ時に、つかまる場所を探していました

訪問施術者は、物を選ぶ前に、動作の中で見えた違和感を返す。

その後の判断は、施設側・ケアマネジャーさん・福祉用具担当者さんと一緒に進める。

この順番なら、専門職としての気づきを活かしながら、役割を越えにくくなります。

福祉用具側から見た現場負担については、こちらの記事でも整理しています。

福祉用具側から見た訪問鍼灸|「利用者に必要」だけでは現場に届かない理由

まとめ

施設での訪問鍼灸・訪問マッサージでは、新しい道具を入れることが最初の答えとは限りません。

いつもの椅子。
ベッド。
廊下の手すり。
トイレまでの動線。

施設にある環境や、普段の生活動作の中にも、確認できることがあります。

まずは今ある物で何ができるかを見る。

職員さんへ新しい仕事を増やさない。

必要な物に気づいても、施術者だけで決めず、動作の違和感として共有する。

この順番にすると、施設側の負担を増やしにくくなります。

訪問施術者が返す価値は、新しい物を提案することだけではありません。

今ある環境の中で、本人さんができることを見つける。

それも、施設で助かる訪問施術者の関わり方です。

福祉用具との連携を整理したい方へ

施設側の負担を増やさない関わりを知りたい方へ

施設内での共有を見直したい方へ

施設での提案に迷う方へ

運動をどこまで提案するか、福祉用具に気づいた時にどう共有するか、施設職員さんとの距離感で迷う方へ。

公式LINEで、無料特典
「訪問鍼灸で判断がブレた時に先に見る1枚」
を配布しています。

施設で自分の役割を広げすぎそうな時に、判断を整理するためのシートです。

▶ 無料特典を受け取る