訪問歯科のトラブルから考える訪問鍼灸|事業者の当たり前と家族のしんどさのズレ

訪問鍼灸・訪問マッサージは、利用者さんの生活の場に入る仕事です。

自宅。
施設。
居室。
共有スペース。
家族さんが見守る場所。

施術者にとっては仕事の場でも、利用者さんや家族さんにとっては生活の場です。

この前提を忘れると、事業者側では丁寧にしているつもりでも、家族さんや施設側には負担になることがあります。

施設側の話の中で、訪問歯科の例が出ました。

複数人で訪問する。
時間がずれる。
口を開ける処置を、人の往来がある場で行う。
本人さんが嫌だと言えないまま進んでしまう。

訪問歯科そのものが悪いという話ではありません。

むしろ、専門職として万全の体制を整えている場合もあります。

ただ、事業者側の「これが丁寧」「これが当たり前」が、家族さんや施設側には圧迫感やしんどさとして伝わることがあります。

これは、訪問鍼灸・訪問マッサージにも同じことが起こり得ます。

この記事では、訪問歯科のトラブルから、訪問鍼灸師・訪問マッサージ師が考えたい「事業者側の当たり前と、家族側のしんどさのズレ」を整理します。

訪問歯科を批判する記事ではなく、生活の場に入る外部職として、訪問施術者が見直したい前提の記事です。

事業者側の当たり前が、家族には圧迫感になることがある

訪問系サービスでは、事業者側が良かれと思って体制を整えることがあります。

複数人で訪問する。
道具をしっかり持ち込む。
時間をかけて説明する。
専門職として万全の状態で対応する。

事業者側から見れば、これは丁寧な対応です。

ただ、家族さんや利用者さんから見ると、違う印象になることがあります。

事業者側の当たり前 家族側に起きること
複数人で訪問する 人が多くて圧迫感がある
専門的に説明する 何をされるのか分かりにくく不安になる
道具をしっかり準備する 生活空間に物が増えて落ち着かない
予定通り処置を進める 本人さんの気持ちが置いていかれることがある

訪問鍼灸・訪問マッサージでも同じです。

施術者側では普通のことでも、家族さんには重く見えることがあります。

たとえば、初回から専門用語で説明する。
道具を広げる。
施術時間が長い。
本人さんの反応より、施術予定を優先する。

こうしたことが続くと、家族さんは「少ししんどい」と感じることがあります。

訪問施術者は、自分たちの当たり前が相手にどう見えるかを、一度疑う必要があります。

時間のズレは、家族や施設には負担になる

訪問サービスでは、時間が少し前後することがあります。

前の予定が長引く。
移動に時間がかかる。
交通状況が悪い。
利用者さんの状態によって施術時間が変わる。

施術者側からすると、多少の時間のズレは仕方ないと感じることもあります。

ただ、家族さんや施設側にとっては、そのズレが大きな負担になることがあります。

家族さんは、その時間に合わせて予定を空けているかもしれません。

施設側は、食事、入浴、排泄、服薬、レクリエーション、他サービスとの兼ね合いの中で動いています。

時間がずれることで起きること 相手側の負担
家族さんの待ち時間が増える 予定が立てにくくなる
施設のケア時間と重なる 職員さんの動きが乱れる
本人さんの休息時間にかかる 施術そのものが負担になる
他サービスと重なる 調整が必要になる

訪問鍼灸では、遅れた時の連絡が小さな信頼になります。

「少し遅れます」
「今日は何時頃になります」
「施設の予定と重なるなら変更します」

こうした連絡があるだけで、相手側の負担は変わります。

施設での報告や連絡の目安については、こちらの記事で整理しています。

施設に入る訪問施術者に必要な報告ルール|施設側が目安を作る意味

施術や処置の場所にも配慮が必要

訪問サービスでは、どこで施術や処置をするかも大切です。

施術者側は、場所が空いていればそこでできると考えることがあります。

ただ、利用者さんにとっては、見られたくない姿勢や表情があります。

身体に触れられる。
衣服を調整する。
痛みを訴える。
口を開ける。
身体の状態を説明される。

こうしたことは、本人さんにとって恥ずかしさや不安につながることがあります。

特に認知機能が低下している方は、嫌だと感じても、それを言葉にできない場合があります。

配慮したいこと 理由
人の往来が多い場所で行わない 本人さんが落ち着きにくい
身体の話を大きな声でしない 他の方に聞こえる可能性がある
本人さんの表情を確認する 嫌と言えない場合がある
施設側に場所を確認する 施設の生活空間を乱さないため

施設内での声量や説明の仕方については、こちらの記事でも整理しています。

訪問施術者の声が大きい・説明を施設に丸投げする|認知症対応型施設で困られる関わり

施術できる場所かどうかだけでなく、本人さんが安心して受けられる場所かどうかを見る。

これも、生活の場に入る外部職として必要な配慮です。

本人さんが嫌と言えない場合を考える

訪問サービスでは、本人さんが明確に拒否しなければ、そのまま進めてしまうことがあります。

ただ、高齢者施設や認知症対応型施設では、本人さんが嫌だと言えないことがあります。

言葉にできない。
状況を理解しきれていない。
周囲に合わせてしまう。
あとから不安や不穏として出る。

この場合、事業者側は「拒否はなかった」と感じます。

でも、施設側から見ると、「本人さんが断れないまま進んでいた」と見えることがあります。

訪問鍼灸でも、これは同じです。

触れられることが不安。
身体を動かすことが怖い。
何をされるのか分からない。
でも、嫌とは言えない。

こうした状態で進めてしまうと、施術内容以前に信頼を失います。

認知症施設で拒否を言語化できない方への配慮については、こちらの記事で詳しく整理しています。

認知症施設に入る訪問鍼灸師が知っておきたいこと|拒否を言語化できない人への配慮

本人さんが嫌と言わないから大丈夫。

そう判断するのではなく、表情、身体の反応、施設職員さんの見立てを含めて確認することが大切です。

訪問鍼灸が学びたいこと

訪問歯科の例から、訪問鍼灸・訪問マッサージが学べることは多くあります。

専門職として丁寧にしているつもりでも、相手には圧迫感になることがある。

事業者側の都合や当たり前が、家族さんや施設側のしんどさになることがある。

本人さんが嫌と言えないまま進んでしまうことがある。

訪問施術者が見直したいこと 現場での判断
訪問人数 必要以上に圧迫感を出していないか
訪問時間 ズレた時に連絡しているか
施術場所 本人さんが安心できる場所か
説明の量 専門職側の自己満足になっていないか
本人さんの反応 拒否が言葉に出ない可能性を見ているか

訪問施術者に必要なのは、自分たちの正しさを押し通すことではありません。

相手の生活の中に入っているという前提を忘れないことです。

施設側から見た訪問鍼灸の分かりにくさについては、こちらの記事でも整理しています。

施設側から見た訪問鍼灸|「何をしているか分からないもの」は勧めにくい

施術が良いかどうか以前に、相手にとってしんどい入り方になっていないか。

そこを見直すだけで、施設側や家族さんとのズレは減らせます。

まとめ

訪問歯科のトラブルから、訪問鍼灸・訪問マッサージが学べることがあります。

それは、事業者側の当たり前が、家族さんや施設側には負担になることがあるということです。

複数人で来る。
時間がずれる。
人の往来がある場所で処置や施術をする。
本人さんが嫌と言えないまま進める。

事業者側では丁寧なつもりでも、相手には圧迫感やしんどさになることがあります。

訪問鍼灸でも同じです。

施術内容だけでなく、訪問の仕方、時間、場所、説明、本人さんの反応を見る必要があります。

専門職として正しいことをしているつもりでも、生活の場では受け取られ方が変わります。

訪問施術者は、自分たちの当たり前を一度疑う。

それが、家族さんや施設側とズレないための最初の判断です。

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