雪山救護のヒヤリハット|歩いて来た外傷

この記事は、
雪山救護の現場で、
「歩いて来たから大丈夫」という判断が、
一瞬で崩れた話
です。

避けられるのは、
・評価前の配置ミス
・順番のズレ
・「軽そう」に引っ張られる判断
です。


現場の前提

雪山で救護に入っていた頃の話。

・外傷対応が中心
・コーレス骨折、肩脱臼、下腿骨折など日常
・希望があれば、その場で整復・固定して下山
・スキー場の方針として、救急車は極力呼ばない
・麓の病院はスキー客で混雑

その年は、
稀に見る大雪の年だった。

前日まで猛雪。
当日は快晴。
いわゆるスキー日和。

こういう日は、
外傷が一気に増える。


歩いて来た患者

30代の夫婦。
どちらも上級者。

上級者コースを滑走中、
夫が転倒。

積雪が多く、
障害物に気づかなかったとのこと。

救護室には、
自力で歩いて来た。

主訴は、
「左肩が痛い。上がらない」。

表情も比較的落ち着いている。

正直、
この時点で思った。

「あ、大丈夫やな」

それまでに、
・骨盤骨折
・大腿骨幹部骨折
・下腿両骨骨折

を続けて見た後だった。

重症者は、
ジェットスキーの後ろに
担架のような台を付けて運ばれてくる。

それに比べて、
自力で滑って、歩いて来ている。

一瞬どころか、
完全に軽い側に振り切っていた。


判断がズレた瞬間

他にも外傷者が多く、
現場は回っていなかった。

正直、
回転を早くしたいという焦りがあった。

とりあえず、
緊急性の有無を確認するつもりで、
どうしたのかを聞いた。

この時、
座ってもらってから聞くべきだった。

しかし、
立ったまま説明を続けてもらった。

すると本人が、

「こうすると痛くて上がらないんです」

と、
左肩を挙上した瞬間。

意識が遠のき、
後ろに倒れそうになった。

幸い、
近くにいたスタッフが支えた。

意識はすぐ戻ったが、
顔色は悪く、冷汗。

この時点で、
異常の質が一気に変わった。


その後の判断

スキー場の方針は一旦横に置いた。

・顔色不良
・冷汗
・一過性の意識障害

外傷の種類は、
この時点で関係なくなった。

救急車を要請。

その後、
中心性脊髄損傷の疑いで入院。

詳しい経過は、
その後知らされていない。


ヒヤッとした本当の理由

危なかったのは、
診断を間違えたことではない。

評価の前に、
安全な姿勢と配置を確保しなかった判断。

・歩いて来た
・落ち着いている
・上肢の痛み

これらの情報に引っ張られ、
「まず守る」より先に、
「まず聞く」を選んでしまった。

評価は、
配置の上でやるものだった。


まとめ

この場面で減らすべきだった判断は、
「何の外傷かを考えること」ではない。

評価より先に、
姿勢と安全を確保しない判断。

次に同じ場面が来たら、
外傷の重さを測る前に、

「まず座ってください。
 無理に動かさないで。」

その一言を、
必ず先に置く。


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