「歩くとしんどい」を軽く見てしまった|安静時の訪問では見えなかった息切れ

長年、定期的に施術している方がいました。

糖尿病の既往があり、過去には頸動脈のステント治療も受けています。

ただ、普段の印象は矍鑠としていました。

会話もしっかりしている。

著しい筋力低下があるようにも見えません。

そんな本人さんが、少し前から、

「最近、歩くのがしんどい」

「ゴミを出しに行くだけでもつらい」

と話すようになっていました。

子どもや孫から旅行に誘われても、しんどいから行かないと言う。

周囲から見ると、そこまで動けない人には見えません。

私自身も話は聞いていましたが、普段の姿を見る限り、

「行こうと思えば行けないことはないんじゃないか」

くらいに考えていました。

その見方が変わったのは、施術中ではありませんでした。

ある日、偶然、外から帰ってくる本人さんを見かけました。

かなり息が上がっていて、明らかに苦しそうでした。

普段、家の中で話している時とは全く違う姿でした。

この記事では、この経験から、本人さんの「しんどい」と、訪問時にこちらが見ている姿が一致しない時に何を見るかを整理します。

病名を当てるための記事ではありません。

訪問施術者として、どこで施術だけの問題ではないと考え、医療へつなぐかを振り返る記事です。

※個人が特定されないよう、経過や周辺情報の一部をぼかしています。

本人は以前から「しんどい」と言っていた

振り返ると、本人さんは何度も情報を出していました。

  • 歩くのがしんどい
  • ゴミ出しに行くのもつらい
  • 旅行へ誘われても行きたくない

ただ、こちらが普段見ている本人さんは元気でした。

施術時には普通に会話ができる。

立ったり歩いたりする能力も、著しく低下しているようには見えない。

そのため、本人さんが言う「しんどい」と、こちらが見ている身体状態がうまく結びつきませんでした。

今振り返ると、私は「歩くのがしんどい」という言葉を、筋力低下と結びつけて見ていたのだと思います。

筋力がそこまで落ちていない。

歩けないわけではない。

だから、本人さんが感じているほど身体能力は落ちていないのではないか。

しかし、

歩けることと、歩いてもしんどくないことは同じではありません。

本人さんの訴えと、こちらから見える状態が一致しない時に、どちらか一方だけを正解にしない考え方は、こちらの記事でも整理しています。

▶ 訪問鍼灸で本人の訴えをそのまま施術判断に使わない理由

外から帰ってきた姿を見て初めて分かった

ある日、かなり久しぶりに、本人さんが外から帰ってくるところを見ました。

強く息切れしていました。

そこで初めて、これまで聞いていた、

「歩くのがしんどい」

「ゴミ出しがつらい」

という言葉と、実際の身体状態がつながりました。

普段の施術では、この姿を見たことがありません。

考えてみれば当然です。

私が訪問する時には、すでに本人さんは家の中にいます。

座って話す。

横になって施術を受ける。

その間、呼吸は落ち着いています。

外へ出て歩き、家に戻ってきた直後を見る機会はほとんどありません。

自宅を訪問しているからといって、その人の生活動作を見ているとは限りません。

訪問では身体だけでなく、普段どのように動き、どこで生活上のズレが起きているかを見る必要があります。

▶ 訪問鍼灸で身体を見る前に確認すること|生活のズレを見る理由

この時は、呼吸器疾患などもあるのではないかと考え、病院を受診するよう勧めました。

その約1週間後、心筋梗塞で倒れた

本人さんは、その時点では受診しなかったようです。

そこから約1週間後。

娘さんから、本人さんが倒れたと聞きました。

心筋梗塞でした。

さらに、心筋梗塞で入院している間に脳梗塞も発症しました。

結果を知った後では、

  • 歩くことを避けるようになっていた
  • 旅行を「しんどい」と断っていた
  • ゴミ出し程度の外出もつらいと話していた
  • 実際の歩行後には強い息切れがあった

という情報が、一つにつながって見えます。

ただし、これらを後から並べて、

「あの息切れは心筋梗塞の前兆だった」

と断定することはできません。

その時点で何が起きていたのかは分かりません。

受診していれば、その後の心筋梗塞や脳梗塞を防げたのかも分かりません。

結果を知った今だから見えるものもあります。

それでも、

「もう少し強く受診を勧めてもよかったのではないか」

という思いは残りました。

問題は、心筋梗塞を見抜けなかったことではない

この事例を、

「心筋梗塞を見逃した」

と整理するのは違うと思っています。

息切れの原因には複数の可能性があります。

訪問施術者が、その場で原因を確定することはできません。

実際、私も最初に考えたのは呼吸器疾患でした。

重要なのは、呼吸器なのか循環器なのかを当てることではありません。

普段と違う労作時の息切れを確認した時に、施術者の範囲だけで見続けてよいのかを判断することです。

心筋梗塞では胸部症状だけでなく、息切れなどがみられることもあります。

だからといって、息切れがあれば心筋梗塞という意味ではありません。

こちらで原因を決めず、医療で確認してもらう必要がある変化として扱います。

診断できない施術者が、普段との差をどう拾い、医療へつなぐかについては、別の実例でも整理しています。

▶ 訪問施術中に急な機能低下を見つけたら|診断できない施術者が医療へつなぐまで

「しんどい」と見た目が一致しない時は、生活範囲を見る

今回、次から確認したいと思ったのは、筋力だけではありません。

本人さんが以前と比べて、何をしなくなったかです。

  • 外出しなくなった
  • 買い物へ行かなくなった
  • 旅行を断るようになった
  • 近所まで歩くことを避けるようになった
  • 家の中でも休む回数が増えた

もちろん、こうした変化の原因が身体疾患とは限りません。

意欲、不安、認知機能、家族関係など、別の理由もあります。

ただ、

以前していたことを「しんどいから」という理由でやめ始めた。

これは一つの状態変化として拾えます。

「歩けますか」だけではなく、

「どれくらい歩くとしんどくなりますか」

「休むと戻りますか」

「最近、しんどくてやめたことはありますか」

まで聞く。

本人さんの訴えと、こちらが見ている姿が一致しない時こそ、どちらかを消すのではなく、そのズレを確認する必要があります。

受診を勧めたことと、必要性が伝わったことは違う

この時は受診を勧めました。

ただ、実際には受診につながりませんでした。

本人さんに受診する意思がなければ、施術者が無理に連れて行くことはできません。

それでも、次に同じような状態を見た時は、伝え方を変えると思います。

単に、

一度病院で診てもらった方がいいですよ。

ではなく、

普段こちらでお話ししている時とは違って、歩いた後にかなり息切れしています。

原因はこちらでは判断できませんが、一度医療機関で確認してもらった方がよい状態だと思います。

と伝える。

必要であれば、本人さんだけでなく家族やケアマネジャーにも共有します。

受診を勧めたことと、こちらがどの程度必要だと考えているかが伝わったことは同じではありません。

ケアマネジャーや他職種へ共有する時は、病名の推測ではなく、

  • 本人さんが以前から何を訴えていたか
  • 今回、実際に何を見たか
  • 普段と何が違ったか
  • 医療機関での確認が必要だと考えていること

を分けて伝える方が使いやすくなります。

介護現場との報告・共有の前提はこちらで整理しています。

▶ 訪問鍼灸・訪問マッサージと介護現場の連携|報告・共有の前提

医師・ケアマネジャーへ何をどう書くかを整理したい場合はこちらです。

▶ 訪問鍼灸の施術報告書|医師・ケアマネに何をどう書く?

明らかな強い息苦しさ、胸部症状、意識状態の変化など緊急性が疑われる場合は、通常の受診勧奨ではなく救急対応を優先します。

長年見ているからこそ、見えにくくなることもある

この方とは長く関わっていました。

そのため、自分の中に、

「この人は矍鑠としている」

「この人は元気な人」

というイメージがありました。

長く関わっていることは、普段との差を見つける強みになります。

一方で、その人に対する固定したイメージにもなります。

本人さん自身は以前から、

「しんどい」

と何度も伝えていました。

こちらの見た目と一致しなかったため、その言葉を十分に重く受け取れていなかった部分があります。

長く見ているから分かることもあれば、長く見ているから見えにくくなる変化もあります。

まとめ

今回の方は、普段の施術時には元気そうに見えていました。

著しい筋力低下もありません。

それでも本人さんは、

  • 歩くのがしんどい
  • ゴミ出しがつらい
  • 旅行には行きたくない

と繰り返していました。

そして偶然、外出後の姿を見た時には、普段とは全く違う強い息切れがありました。

今回の経過から、以前の症状が心筋梗塞によるものだったと断定することはできません。

ただ、次から変えられることはあります。

  • 「歩ける」と「歩いてもしんどくない」を分ける
  • 筋力だけでなく、活動できる範囲の変化を見る
  • 本人が最近やめたことを確認する
  • 安静時の姿だけで本人の訴えを小さく評価しない
  • 原因を当てるのではなく、医療評価が必要な変化かを考える
  • 受診が必要だと考えた時は、その強さまで伝える

訪問施術者は診断できません。

しかし、本人さんが以前と比べて何をしなくなったか、何をつらいと言うようになったかは拾えます。

施術中に見えている本人さんが、その人の一日の身体状態すべてではありません。

今回、自分に一番残ったのはそこでした。

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