訪問施術で「今日お金ないわ」と言われた時|支払いトラブルだけで終わらせない

長年、定期的に施術している方がいます。

もともと陽気で、冗談の多い方です。

短い時間だけ話していると、認知機能がかなり低下しているとは分かりにくい。

少し話が噛み合わなくても、冗談を言ったり笑ったりしながら、その場を自然に流せてしまいます。

近所の友人など、たまに会う人から見ると、以前とそれほど変わっていないように見えるかもしれません。

しかし、長く関わっている家族や私、医療・介護職などから見ると、認知機能の低下はかなり進んでいました。

その方から、ある日の施術後に言われました。

「今日、お金ないわ。どこ置いたか分からんねん」

財布も見つからない。

カードもどこに置いたか分からない。

現金もない。

一見すると、施術代の支払いトラブルです。

ただ、このケースでは「今日払えるか」だけを見ても、問題の中心は見えてきませんでした。

支払いができないこと自体が、生活管理が崩れてきている一つのサインだったからです。

この記事では、「今日お金がない」と言われた時に、未払いの問題と生活上の変化をどう分けて見るかを整理します。

※個人が特定されないよう、経過や周辺情報の一部を変更しています。

短い会話では分かりにくかった

この方の特徴は、少し話しただけでは認知機能の低下が見えにくいことでした。

挨拶ができる。

冗談も言える。

昔の話もできる。

こちらの話に笑って返す。

そのため、短時間のやり取りだけなら「しっかりしている人」に見えます。

しかし、長期間の変化を見ると違います。

同じ話が増える。

物の置き場所が分からなくなる。

家族との出来事について、周囲が把握している状況とは違う話が続く。

日常生活のお金の管理も難しくなっていました。

会話が成立していることと、生活を自分で管理できていることは同じではありません。

訪問では、目の前の受け答えだけでなく、数週間、数か月、数年単位で何が変わったかを見る必要があります。

「お金を取られる」から現金を隠すようになった

本人さんには、

「娘がお金を取る」

という訴えがありました。

一方で、ご家族からは、そのような事実はないと聞いていました。

本人さんの認識と、家族が把握している状況にズレがあります。

ただ、本人さんの中では、お金を守らなければいけない。

そのため、自分で現金を隠します。

問題は、そのあとです。

隠した場所を忘れてしまう。

財布をどこに置いたか分からない。

カードも見つからない。

結果として、自分のお金があるはずなのに使えなくなります。

娘さんが食料品や日用品を用意しても、短期間でなくなる。

年金収入そのものには余裕があっても、本人さんの日常生活では「お金がない」という状態が起きます。

ここで、

「年金はあるんだから大丈夫」

とは言えません。

お金を持っていることと、自分で安全に管理して使えることは別だからです。

「お金を取られる」という本人さんの訴えを、事実か間違いかだけで処理しない考え方については、こちらの記事でも整理しています。

▶ 高齢者の「ご飯がまずい」「お金を取られる」をどう受け取るか

支払いトラブルと生活管理の崩れは分けて見る

訪問施術では、支払いの問題は曖昧にしない方がいいと思っています。

支払いを先延ばしにする。

毎回「次で払う」と言う。

料金の話を曖昧にする。

こうした状態をそのままにすると、施術者との関係も崩れます。

支払いルールについては、こちらの記事で整理しています。

▶ 訪問鍼灸の支払いトラブル|月まとめ・預かり金の判断基準

ただ、今回のケースは少し違います。

本人さんが料金を払いたくないわけではありません。

値段交渉をしているわけでもない。

払う約束を意図的に無視しているわけでもありません。

払うために必要な「財布を管理する」「現金の場所を覚えておく」「必要な金額を残しておく」といった生活上の機能そのものが低下していました。

同じ「今日払えない」でも、背景によって対応は変わります。

支払いルールの問題なのか。

家族との連絡の問題なのか。

生活管理能力の変化なのか。

そこを一度分けて考えます。

見るのは施術代だけではない

施術者にとって一番分かりやすい変化は、施術代が払えなくなったことです。

しかし、それだけを見ると、

「次回まとめて払ってもらおう」

で終わります。

今回、実際にはその周りでも変化が起きていました。

  • 現金を隠して、場所が分からなくなる
  • 財布やカードを頻繁に探す
  • 食料品や日用品の管理が難しくなる
  • 家族がお金を取っているという訴えが続く
  • 収入はあるのに、本人の手元では生活費がなくなる

施術費の未払いは、この中の一つです。

「支払いができなかった」のではなく、「生活の管理が一段難しくなった結果、支払いにも表れた」と見る方が近いケースがあります。

本人さんの訴えと実際の状況が噛み合わない時に、言葉だけで判断しない考え方はこちらでも整理しています。

▶ 訪問鍼灸で本人の訴えをそのまま施術判断に使わない理由

変化に気づいた後、施術者がすること

今回のようなケースで、施術者が見るのは金銭管理そのものではありません。

見るのは、

「以前できていたことが、できなくなっていないか」

という変化です。

以前は施術日に料金を用意できていた。

財布や現金の場所も把握できていた。

それが、

  • 現金を隠した場所が分からない
  • 財布やカードが見つからない
  • 必要な支払いができない
  • 生活費が短期間でなくなる

という状態に変わってきた。

これは、施術代の回収方法だけを調整して終わる話ではありません。

金銭管理の変化を、生活管理の変化として必要な人へ共有する。

訪問施術者として見るのは、そこだと思います。

自分で抱え込まず、他職種へどこまで渡すかという考え方は、こちらの記事でも整理しています。

▶ 介護保険外の訪問施術者はどこまで関わるべきか

家族・他職種へ何を共有するか

共有する時も、

「認知症が進んでいます」

と施術者が評価を確定させる必要はありません。

見たことを具体的に伝えます。

最近、施術代を用意できないことがあり、「現金をどこに置いたか分からない」「財布やカードも見つからない」と話されることが増えています。

支払いの問題だけではなく、日常の金銭管理そのものが以前より難しくなっているように見えるため、共有しておきます。

これなら、本人さんを評価しすぎず、家族の金銭管理を批判することもありません。

家族、ケアマネジャー、看護師、医療職など、その方にすでに関わっている人が次の対応を考えるための情報になります。

ケアマネジャーへ共有する時も、施術内容の説明だけではなく、こうした生活上の変化が判断材料になることがあります。

▶ 訪問鍼灸のケアマネ連携|報告が伝わる人・伝わらない人の違い

介護現場との共有全体については、こちらの記事にまとめています。

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まとめ

「今日、お金ないわ」

訪問施術では、まず支払いの問題として目に入ります。

もちろん、支払いルールを曖昧にしないことは必要です。

ただ、その人に認知機能や生活管理の変化がある場合、同じ言葉でも意味が変わります。

  • 払いたくないのか
  • 一時的に現金がないだけなのか
  • 家族との連絡がうまくいっていないのか
  • 財布や現金を管理できなくなっているのか
  • 生活全体の管理が難しくなっているのか

ここを分けて見ます。

今回の方は、短時間話すだけなら、かなりしっかりしているように見える方でした。

それでも長く関わっていると、生活の中では少しずつできないことが増えていました。

その一つが、施術代の支払いとして表に出ました。

訪問施術で起きる「お金の問題」は、必ずしもお金だけの問題ではありません。

施術者が金銭管理そのものを担うわけではありません。

ただ、以前できていた生活管理が崩れてきた変化として拾い、家族や他職種へ返すことはできます。

「払ってもらえなかった」で終わらず、何が変わった結果なのかを一度見る。

今回のケースから、自分に残っている判断です。

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