訪問鍼灸のヒヤリハット|本人が望んでいても、家族が納得していなかった話
訪問鍼灸では、患者さん本人が施術を希望していれば、比較的スムーズに話が進むことがあります。
困っている症状があり、訪問を希望していて、こちらも対応できる。
それだけ聞くと、特に問題はなさそうです。
ただ、訪問の場合は少し事情が違います。
以前、本人は訪問鍼灸を強く希望していたものの、最終的にこちらからお断りしたことがありました。
施術内容や料金で問題があったわけではありません。
同居しているご主人との認識に、大きな違いがあったからです。
本人はかなり前向きだった
紹介を受けて、訪問を検討していた60代くらいの女性の方でした。
身体が不自由で、日常生活を一人ですべてこなすことは難しい状態でしたが、意思疎通には問題がありませんでした。
痛みや生活上の困りごとについても、ご本人からしっかり話していただけました。
訪問してほしいという希望も明確でした。
施術者としては、こうした条件が揃っていると、訪問を始める方向で話を進めやすくなります。
ただ、話をしているうちに、少し気になることがありました。
同居のご家族がいるはずなのに、その話がなかなか出てこなかったのです。
訪問を始めるとなれば、自宅に定期的に施術者が出入りすることになります。
ご本人の希望は分かりましたが、ご家族がどう考えているのかは見えていませんでした。
ご主人は他人が家に入ることを嫌がっていた
後から分かったのですが、同居しているご主人は、自宅に他人が入ってくることをあまりよく思っていなかったようです。
ご本人は、そのご主人がいない時間を選んで、話を進めていたようでした。
もちろん、ご本人には施術を受けたいという意思があります。
判断能力もあり、ご自身の困りごとについて説明できる方でした。
だからといって、ご主人の意向だけで本人の希望を否定してよいわけではありません。
ただ、私がこれから入るのは、ご本人だけの空間ではなく、ご主人も生活している自宅です。
そこで定期的な訪問を始める以上、ご主人との関係を無視して進めることにも難しさがあります。
最終的にはご主人とも話をさせてもらいました。
そのうえで、今回は私の方から訪問をお断りすることにしました。
始められることと、続けられることは違う
この件で考えたのは、本人が施術を希望しているかどうかだけでは、訪問を続けられるか判断できないということです。
仮にご主人のいない時間に訪問を始めたとしても、その状態をずっと続けることが適切なのか。
施術者が訪問するたびに、ご本人が家族との関係を気にしなければならないとしたら、施術を受けること自体が負担になるかもしれません。
こちらとしても、家族が反対していることを知りながら、その人の生活の場に入り続けるのは難しいと感じました。
これは、ご家族全員の許可がないと訪問鍼灸をしてはいけないという話ではありません。
本人の意思は当然尊重されるべきです。
一方で、訪問施術には、家族の生活空間に関わるという側面もあります。
本人の希望を尊重することと、家族との関係を無視して施術を始めることは、同じではない。
私はそう考えています。
今なら、もう少し早い段階で確認する
今回のケースは、施術を開始する前に状況を把握できたので、結果として訪問をお断りすることができました。
ただ、もう少し早く家族の関わり方を確認しておけば、話の進め方も違ったかもしれません。
例えば、同居のご家族がいる場合には、訪問する時間帯や、自宅に外部の人が入ることについて、何か支障がないか確認しておく。
介護や生活上の協力が必要な場合には、どの部分を家族が担っているのかも聞いておく。
ご本人だけで完結できることなのか、家族との調整が必要なのか。
この違いを把握しておくことは、訪問を始めるうえで重要だと思います。
ただし、家族に確認するという名目で、ご本人の意向を飛ばして話を進めるべきではありません。
まず本人の希望を聞き、必要な範囲で家族との調整について相談する。
その順番は大切にしたいところです。
断るという判断も、訪問施術の仕事の一つ
新規の依頼をいただけるのはありがたいことです。
特に紹介で声をかけていただいた場合は、できる限り対応したいと思います。
それでも、すべての依頼を引き受けることが、必ずしも良い結果につながるわけではありません。
今回も、ご本人が希望されていたことを考えると、お断りするのが唯一の正解だったとまでは言い切れません。
ただ、当時の状況では、こちらから無理に訪問を始めるべきではないと判断しました。
訪問施術は、施術者と患者さんだけの関係で完結しないことがあります。
家族の生活もあり、介護を担う人の事情もあり、長く続いてきた家庭内の関係もあります。
そこに外部の施術者が入っていくわけです。
施術の必要性だけでなく、実際に訪問を続けられる環境なのか。
新しい依頼を受けるときには、そこまで考えておきたいと思います。
まとめ
この経験で印象に残っているのは、ご本人が訪問を希望していたことと、ご主人がそれを歓迎していなかったことの両方です。
どちらか一方を悪者にする話ではありません。
本人には本人の困りごとがあり、ご家族にはご家族の生活があります。
施術者として大切なのは、その間に無理に入り込むことではなく、どのような形なら施術を続けられるのかを考えることだと思います。
そして、どうしても条件が整わない場合には、始めないという判断も必要になります。
訪問を始めることより、無理なく続けられる形で始めること。
今回の経験から得た判断の一つです。
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